医学論文で、「非劣性試験」いう試験結果をよく目にするようになりました。これは、近年、倫理的な問題もありプラセボや無治療群との比較試験を行うことが難しくなった結果、その時点での標準的な治療を対照群として比較した試験が組まれることが多くなったからです。新たな治療法が明らかに優れた有効性をもたらすものでなかったとしても、副作用が軽減できる、薬剤の投与回数が大幅に軽減できるなどの、臨床的ベネフィットが期待できることがあるからです。
前回、同等性試験について解説しました。優越性試験では、有効性を判定するにはp値と有意水準を用いますが、同等性試験ではp値で判断することができず、信頼区間と同等性マージンを用いました。
非劣性試験も同等性試験と同じで、信頼区間と非劣性マージンを用いて判定します。
優越性試験、同等性試験、非劣性試験(3つの試験の区別)
- 優越性試験(Superiority Trials):介入群の有効性が対照群より優れることを示す試験
- 同等性試験(Equivalence Trials):介入群と対照群の有効性が同等であることを示す試験
- 非劣性試験(Non-inferiority Trials):介入群の有効性が対照群と劣らないことを示す試験
非劣性試験とは
非劣性試験は、たとえば比較する対照群が新薬と従来薬の場合、「新薬は副作用が少ない」など、従来薬よりも臨床的ベネフィットがあると想定します。従来薬に対し有効性で優越性が証明できなくても、劣っていないことが証明できればそれでよい、といった研究で使われます。この試験を「非劣性試験」と言います。
同等性を示す場合には、信頼区間の上限、下限とも同等性マージンの幅の中に入らなければなりませんでした(図1)。
図1 信頼区間と同等性マージン

しかし、同等性を示すマージンが両側であるのに対し、非劣性試験では、新薬が従来薬より劣っていないかどうかのみに注目し、新薬が従来薬より優れているという優越性が成り立っても成り立たなくてもよいので、信頼区間の片側(上限または下限)のみに注目します(図2)。
図2 信頼区間と非劣性マージン

慣習として判定基準を厳しくするため、非劣性試験では通常の95%信頼区間ではなく、97.5%信頼区間でとることが多くあります。
非劣性試験結果を解釈するときの注意点①
非劣性試験を解釈するときに注意しなければならない要因として、「分析感度」と「非劣性マージンの設定」の2つがあります。
分析感度は、「無効な治療と有効な治療を判定する力」のことを言います。質の悪い試験では分析感度は低下し、介入群と治療群の差は小さくなってしまいます。たとえば、新薬群も従来薬群とも服薬アドヒアランスがとても悪く、ほとんど薬剤を服薬していなかったとすると、群間差はとても小さくなってしまいます。このような場合、優越性試験であれば差を示すことができなくなり、有意に差があると示すことが難しくなりますが、非劣性試験では、差が小さくなることはむしろ非劣性を示す結果に有利となってしまいます。
すなわち、新薬は従来薬よりも意味のある差を超えて劣っていたとしても、試験の質が悪いためにその差をしっかりと判定することができず、誤って非劣性であることが結果として示されてしまう可能性があります。
次に非劣性マージンの幅(値)が大きいとどうなるでしょうか。非劣性マージンは、統計解析ではハンディキャップとしてはたらいていますので、ハンディキャップが大きいほど、非劣性を証明しやすくなり、ハンディキャップが小さいと証明しにくくなります。
非劣性マージンの設定は、過去の研究などから判断して設定することが多く、また同等性試験の際のマージンの設定と同様に、非劣性試験においても試験の前に設定をしておかなければなりません。
このように優越性試験の結果は、客観的に解釈は可能ですが、非劣性試験の解釈には分析感度の存在を仮定したり、非劣性マージンの幅がどう設定されているのかなど、何らかの仮定や主観的要素が含まれます。優越性試験と非劣性試験の最大の違いはこの点にありますので、論文を読む際には、非劣性試験の結果だけをみるのではなく、非劣性マージンが試験前に、そして客観的に設定されているかどうかなども含めて論文から読みとるようにしましょう。
非劣性試験結果を解釈するときの注意点②
非劣性試験において、仮に非劣性マージンΔ=0と設定した場合は、優越性試験の判断基準に相応することになります(図3)。
図3 信頼区間と非劣性マージンと優越性の検証

では、非劣性試験で優越性を検証することはできるのでしょうか。
非劣性試験において-Δを超えて非劣性が証明されただけではなく、+Δも超えることもあり得ます。がん領域などでは、非劣性試験でありながら、非劣性が証明されれば引き続いて、優越性の検証を行う試験が増えています。
しかし、臨床試験は、事前に検討されたある仮説を検証することが目的ですので、非劣性仮説を検証する試験から優越性までを主張してしまうことは、通常受け入れられません。
そのような場合は、やはり優越性を臨床的に受け入れるために、他試験による優越性の再現が必要であるとされています。
この記事について
企画・制作/ケアネット
※CareNet.comにて掲載のシリーズを承諾を得て転載
https://www.carenet.com/series/istat/cg002147_index.html
執筆/志賀 保夫 ( しが やすお ) 氏
株式会社アイスタット 代表取締役社長
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授(統計士・統計データ分析士・データ解析士)
監修/菅 民郎 ( かん たみお ) 氏
株式会社アイスタット 代表取締役会長
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 名誉教授(理学博士)