【第3回】エラーバーはいつも対称とは限らない

第1回「『標準偏差』と『標準誤差』の使い分けは」で、エラーバー(error bar)についても解説しました。通常よく目にする医学論文の図表では、エラーバーは代表値を中心に上下あるいは左右対称で同じ長さであることが多いかもしれません。しかし、エラーバーが必ずしも上下(左右)が対称ではなく、非対称、すなわち代表値を中心に同じ長さではない図表を目にすることもあるのではないでしょうか。

今回は、どのような場合にエラーバーが上下(左右)非対称となっているのかを解説します。

エラーバーでバラツキを示す指標も表示する

ある試験を行った結果、毎回同じ結果が出るとは限りません。ですからデータをグラフ化する場合には、バラツキを示す指標もエラーバーで表示することが重要です。エラーバーは、データの誤差(エラー)の程度を表すためのもので、±標準偏差(SD)、±標準誤差(SE)、パーセンタイル(percentile)、95%信頼区間(confidence interval:CI)と使い分けられています。

今回は純粋にデータのバラツキを示したい、あるいは比べたいというときに用いる標準偏差で説明します。

正規分布の場合と正規分布ではない場合

臨床試験データの中には標準的な正規分布に従わない場合もあります。よく知られているのは、図1のようにわが国の各世帯の所得金額の分布は、標準的な正規分布ではなく、片対数正規分布であると言われています。

図1 片対数正規分布例-所得金額階級別にみた世帯数の相対度数分布。中央値と平均所得金額の位置を示す棒グラフ

臨床試験の結果がこのように標準的な正規分布ではなく、図2のように片対数正規分布に従うような場合は、エラーバーの上下(左右)は対称ではなく非対称になります。つまり長さが異なることもあります。

図2 片対数正規分布グラフとエラーバー。平均値±標準偏差の区間が左右非対称になることを示す図

具体例として学習用の架空のデータで、非対称のエラーバーを見てみましょう。図3は、ある薬剤の薬物動態を表したデータです。薬物投与後の血中濃度の推移を見ています。

図3 上下非対称のエラーバーの例-ある薬剤の血中濃度に関する平均値の表示例。対数軸の折れ線グラフ

平均値±標準偏差により算出されるエラーバーの長さ(区間幅)は、片対数軸上では非対称となります。また、このグラフでの24時間値は平均値-標準偏差がマイナス値となるため、グラフに下側のエラーバーを表示することができない場合があります。このため、平均値+標準偏差のように上側のエラーバーのみが表示されることも多くみられますが、上側と下側の長さ(区間幅)が異なることにも注意して、論文の図表を見る必要があります。

そして、得られたデータから標準的な正規分布が推定される場合は、上下対称の長さ(区間幅)のグラフを作図するときは、グラフの重なりなどで見にくくなるのを防ぐため、上側と下側どちらかのエラーバーのみを表示しても構いません。

いずれの場合においても論文の図表でエラーバーをみた際は、記述をよく読んでエラーバーがどのような定義で作成されているのかを見極めることが大切です。

この記事について

企画・制作/ケアネット
※CareNet.comにて掲載のシリーズを承諾を得て転載
https://www.carenet.com/series/istat/cg002147_index.html
執筆/志賀 保夫 ( しが やすお ) 氏
株式会社アイスタット 代表取締役社長
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授(統計士・統計データ分析士・データ解析士)
監修/菅 民郎 ( かん たみお ) 氏
株式会社アイスタット 代表取締役会長
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 名誉教授(理学博士)

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