【第5回】臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)

前回は、地域住民や患者さんを対象にアンケート調査(市場調査、社会調査)を行う際に必要なn数(サンプルサイズ)の計算方法について解説しました。今回は、臨床試験を行う際に必要なn数(サンプルサイズ)について解説します。

臨床研究計画を立てるときのn数(サンプルサイズ)設定

臨床試験は、被験者の負担や臨床試験にかかる費用を少なくするために、できるだけ少ない被験者で行いたいのが実情です。しかし、被験者が少な過ぎると標準誤差が大きくなることから信頼区間の幅が広くなり、治療に効果があるのにその効果を臨床試験の結果として検出できないことがあります。一方、被験者が多過ぎると母集団の信頼区間の幅は狭くなり過ぎて、医学的に意味のない結果を検出することもあります。

ですから医学的に意味のある結果を、できるだけ少ない被験者(症例数)で示すためにn数(サンプルサイズ)の設定が重要になります。

検定結果で誤る2つの可能性

臨床試験で避けなければならない失敗の1つは、「効果のない治療を効果がある」と判定してしまうことです。

このような間違いを「第一種の誤り(過誤)」といいます。第一種の過誤は、「αエラー」ともいい、統計的観点から立てる仮説である帰無仮説(新しい治療法は従来の治療法と同じ効果である)が正しいのに、それを棄却してしまうという誤りです。n数(サンプルサイズ)が大きいときに起こる可能性が高くなります。このαは有意水準のことです。

もう1つの失敗は、「本当は効果がある治療を効果がないと判断して臨床試験を中止してしまう」ことです。このような間違いを「第二種の誤り(過誤)」といいます。第二種の過誤は、「βエラー」といい、帰無仮説が間違っているのに、それを見逃す誤りです。n数(サンプルサイズ)が小さいときに起こる可能性が高くなります。

臨床試験を行う研究者にとっては、治療が有効であると考えているのですから、このβエラーは極力避けたいものです。検出力は「1-β」で定義され、本当は効果がある治療が正しく「効果がある」と判断される確率です。

n数(サンプルサイズ)の設定

臨床試験の際のn数(サンプルサイズ)の設定には、「有意水準」、「検出力」、「検出したい治療効果の大きさ」の値が必要です。有意水準(α)は0.05もしくは0.01が用いられることが多く、検出力(1-β)は0.8~0.9に設定されます。そのため、実際に算出する必要があるのは「治療効果の大きさ(効果量)」だけになります。治療効果の大きさ(効果量)は、過去の臨床試験データやそれまでの予備試験データなどから効果をどのくらいに設定するのか、ということです。たとえば、新しい治療と既存の治療との間で血圧の平均値の差が8mmHgであるというように、臨床試験によって起こりうる結果を試験開始前に推測しておくということです。

効果が大きい場合にはn数(サンプルサイズ)は小さくてよく、一方で効果が小さい場合にはn数(サンプルサイズ)は大きくならなければなりません。たとえば効果が半分になれば必要なn数(サンプルサイズ)は4倍になります。

また、臨床試験で得られたデータのバラツキ(標準偏差)が小さければn数(サンプルサイズ)は小さくてよく、一方でデータのバラツキが大きければ必要なn数(サンプルサイズ)は大きくなります。たとえば標準偏差が2倍になれば必要なn数(サンプルサイズ)は4倍となります。

実際のn数(サンプルサイズ)の計算方法

実際のn数(サンプルサイズ)の計算方法は、一様ではなく、どのような検定法で臨床試験結果を判断するのかによって、異なる数式から求められます。

臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)を計算・シミュレーションできる、有償・無償のソフトウエアが、今ではたくさんありますので、簡単にn数(サンプルサイズ)を求めることができます。

1つ注意しておきたいことは、国際的なガイドラインである「CONSORT声明(Consolidated Standards of Reporting Trials Statement:臨床試験報告に関する統合基準に関する声明)」では、研究結果をまとめた論文に、研究計画時にどのようにしてn数(サンプルサイズ)を決定したのかを記載するよう定めています。ですから、一度決めたn数(サンプルサイズ)を容易に変更することはできないということです。

実際のn数(サンプルサイズ)の計算方法(母平均の検定)

サンプルサイズの計算方法

検出力とは?

実際は対立仮説が成り立っているときに、帰無仮説を正しく棄却する確率を検出力といいます。これは第二種の誤りを起こさない確率であり、「1-β」と表します。

サンプルサイズの検定【検出力】とは?

母平均の検定を例に解説します。

検定統計量の値は、サンプルサイズ(=標本数)と検出力に大きく影響を受けます。一般的に、サンプルサイズや検出力が大きくなれば、検定統計量の値は大きくなる傾向にあり、反対に小さくなれば値は小さくなります。

帰無仮説m=m0で本当はmとm0に意味のある差がみられても、サンプルサイズや検出力が小さければ、統計量|t0|の値は大きくならず、「有意差なし」となります。逆にmとm0の差が小さくても、サンプルサイズや検出力が大きければ「有意差あり」となります。このような検定結果をうのみにするのは危険です。したがって、サンプルサイズと検出力の設定を行った後に、そのサンプルサイズの下で再度検定をやり直す必要があります。

計算方法

母平均の検定において、

帰無仮説 H0:m=m0、対立仮説 H1:m≠m0 を示す表

を設定する場合のサンプルサイズの決定を解説します。

帰無仮説の下での値m0と真のmとの差が母標準偏差σの何倍あるのかを示す量が、

効果量 Δ=(m-m0)÷σ について |Δ|≧Δ0>0 を示す式

のとき、有意水準αに対して検出力1-βでH0を棄却したかったとします。そのために必要なサンプルサイズnの設定のための式は、以下のとおりです。

必要なサンプルサイズ n=((Zα/2-Z1-β)÷Δ0)²+(Zα/2)²÷2 を示す式

分子のZα/2、Z1-βは、それぞれ標準正規分布の上側100(α/2)、100(1-β)%点です。

【例題】

有意水準αが0.05で、帰無仮説と対立仮説がそれぞれ

例題の帰無仮説 H0:m=m0 と対立仮説 H1:m≠m0 を示す表

である母平均の検定を考えます。

例題の効果量 Δ=(m-m0)÷σ ≧ Δ0=1.0 を示す式

かつ 検出力 1-β=0.90

でH0を棄却したい場合、サンプルサイズはいくつ必要でしょうか。

【解答】

サンプルサイズnを計算すると、

有意水準0.05・検出力0.90 のときのサンプルサイズの計算。n=12.43

*Z=標準正規分布表の値

です。したがって、サンプルサイズの候補はn=13あるいはn=12です。

今回は、臨床試験を行う際に必要なn数(サンプルサイズ)について解説してきました。臨床試験の論文を読むときには、主要エンドポイントとその統計手法、サンプルサイズの計算などを必ず確認するようにしましょう。

この記事について

企画・制作/ケアネット
※CareNet.comにて掲載のシリーズを承諾を得て転載
https://www.carenet.com/series/istat/cg002147_index.html
執筆/志賀 保夫 ( しが やすお ) 氏
株式会社アイスタット 代表取締役社長
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授(統計士・統計データ分析士・データ解析士)
監修/菅 民郎 ( かん たみお ) 氏
株式会社アイスタット 代表取締役会長
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 名誉教授(理学博士)

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